北海道大学グリーントランスフォーメーション先導研究センター

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【講義レポート】GX特論Ⅰ 第1回|石井一英教授「GXと地域共生」

2026.06.15

GXとは何か、その本質を考える

第1回となる今回は、石井一英教授(北海道大学大学院工学研究院 循環共生システム研究室)が登壇。世界の潮流から地域に根差した課題を見据え、私たちが取り組むべき「GXの本質」について講義が行われました。

地球規模の限界とGXが求める抜本的な社会改革

私たちが今、GXを推進しなければならない背景には、地球規模での環境危機の深刻化があります。

人間活動に伴う温室効果ガス(GHG)の蓄積により、IPCCが示す「1.5℃シナリオ」の達成に向けた残されたカーボンバジェット(炭素予算)は極めて逼迫しています。

また、世界的な人口増加に伴う食料需要の更なる高まりや、窒素やリンなどの物質循環の不均衡も深刻です。地球環境の限界(プラネタリー・バウンダリー)はすでに複数の項目で限界値を突破しています。

このようにマクロな視点から地球環境を見つめ直すと、GXの本質が単なるエネルギーの代替ではなく、私たちの生存基盤そのものを維持するための「抜本的な社会変革」であることが見えてきます。

この難局を突破するため、石井教授が提示したのが、身の回りのものを資源として見つめ直す「廃棄物めがね」という新しい視点です。特定の技術や理想論だけに頼るのではなく、「利用可能なあらゆる技術、あらゆる知見、あらゆる立場の人々の対話を総動員することが大切だ」と、語ります。

問いを投げかけ、共に考えるー石井教授の穏やかな口調に引き込まれるひとコマ

北海道のポテンシャルと、足元のある地域のリアル

視点を地球規模から私たちの暮らす「北海道」へと移すと、ここには特有の可能性と課題が共存しています。

雄大で美しい四季の自然に恵まれた北海道は、食料自給率218%(2022年)を誇る日本の食料基地であり、広大な土地と吹き抜ける風、降り注ぐ太陽など、日本随一の再生可能エネルギー・ポテンシャルを有しています。

しかしその一方で、大量に発生する「家畜ふん尿」や「林地残渣(りんちざんさ)」の処理という足元の課題も見過ごせません。これらを単なる廃棄物ではなく、エネルギーや肥料として地域内でどう循環させ、環境負荷を低減していくか、大きな問いが学生たちに投げかけられました。

再エネ導入の鍵を握る地域共生の仕組み

再エネ事業を推進する上で避けて通れないのが、地域との共生です。講義では、石井教授の調査(2024〜2025年)に基づき、風力発電事業者(事業推進・法律順守優先)と地元自治体(地域貢献・中長期的な関係構築優先)との間にある意識のギャップが明らかにされました。

再エネ施設は「地球規模の公益」を掲げる事業者と、「地域固有の環境や生活」を守りたい住民との間で、受益圏(都市部や外部資本)と受苦圏(立地地域)が地理的・経済的に分離しやすいという特性(NIMBY:総論賛成・各論反対)を持っています。

だからこそ、単なる負担やリスクの押し付けで終わらせてはなりません。信頼関係の構築」と「地域への利益還元」を可能にするゾーニングや条例などの制度整備が不可欠であるという点は、今回の講義における非常に重要な論点のひとつでした。

主体的な意識の転換:脱炭素の先にある未来へ

社会のリアルな課題を見つめると、一見、解決は難しく感じられるかもしれません。しかし、石井教授の言葉の奥には、いつも次世代や地域社会を想う、温かく利他的な眼差しがあります。

大切なのは「温室効果ガスを減らさなければならない」という義務感ではなく、「未来の人たちのために、今、何ができるだろう?」という主体的な視点へと転換すること。それこそが、石井教授の考える持続可能な未来の姿であり、これからの時代を担う学生たちに託されたメッセージなのです。

講義の締めくくりとして、石井教授は「脱炭素(GX)、サーキュラーエコノミー(循環経済)、ネイチャーポジティブ(自然再興)、はあくまで手段であり、本質はその先にある『将来のまちづくり』の実現である」と強調されました。

 

教室全体がひとつの「思考の場」となる瞬間

学生たちへのメッセージと当センターの役割

講義を終えた学生たちには、「GXとは何か?」を自ら深く思考するレポート課題が課されます。

全8回の講義を通じて、学生一人ひとりの洞察がどのように深まっていくのか、今後の成長が非常に楽しみです。

豊かな自然と地域の課題が共存する“実験場”を持つ北海道大学だからこそ、現場から直接学ぶGX教育が実現します。地域のリアルを五感で受け止め、自らの手で未来の社会を構想する——それこそが、本学でGXを学ぶ大きな意義です。

当センターでは、今後も学術的知見と社会実装の現場をつなぐ教育・研究活動を広く発信し、次世代のGXリーダー育成に取り組んでまいります。

次回の「GX特論Ⅰ」予告

日時: 6月17日(水)18時15分~

テーマ: 地球温暖化の影響 ~北極・南極の環境変化~

講師: 杉山 慎 氏(北海道大学 低温科学研究所/北極圏研究センター長・教授)

次回は、地球温暖化の最前線である極域(北極・南極)の環境変化に迫ります。私たちが直面している気候変動の現実を、最新の研究データとともに学びます。どうぞお楽しみに!

【用語解説】

プラネタリー・バウンダリー(Planetary boundaries)

地球環境の限界点を表す概念。人類が将来にわたって安全に存続できる「地球システムの限界(境界線)」を示したもので、気候変動や生物多様性などいくつかの項目は、すでに危険な領域に達していると指摘されている。

林地残渣(りんちざんさ)

樹木を伐採した後に林地に残された枝や葉、根元部などの端材を指す。

NIMBY(ニンビー)

英語の句「Not In My Back Yard」私の裏庭にはお断りの略。施設の必要性は社会全体として認めるものの、自らの居住地域への設置には反対する「総論賛成・各論反対」の心理や態度。

サーキュラーエコノミー(Circular Economy/循環経済)

製品や素材、資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小限に抑える経済システム。従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」のリニア(直線型)経済からの転換を目指す。

ネイチャーポジティブ(Nature Positive/自然再興)

生物多様性の損失を食い止め、自然生態系を回復軌道に乗せることを目指す概念。社会・経済活動による環境負荷を抑えるだけでなく、自然にプラスの影響を与えることを重視する。

関連リンク

北海道大学大学院工学研究院 教授 石井一英(研究者紹介)

北海道大学循環共生システム研究室

【公開資料】第1回「GXと地域共生」講義レポート(PDF版)

 

 

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