北海道大学グリーントランスフォーメーション先導研究センター

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【講義レポート】GX特論Ⅰ 第6回|久保田 学氏「再生可能エネルギーの立地と課題」

2026.07.22

再生可能エネルギー(再エネ)の供給基地として期待される北海道。そうした国家レベルの要請に応えていくなかで地域では何が起きているのでしょうか。

第6回の「GX特論Ⅰ」では、長年にわたり北海道内で環境保全と地域調整の現場に立ち続けてきた久保田学氏をお迎えし、再エネ導入を進めるうえで考慮すべき副作用、そして「公正な移行」について考えました。

1.「再エネ供給基地」で北海道は豊かになれるか?

風力・太陽光ともに全国1位の導入ポテンシャルを誇る北海道は、日本全体のGXを牽引する「脱炭素エネルギー基地」としての期待を背負っています。2023年の「脱炭素社会の未来を拓く北海道・札幌宣言」(*1)でも、官民一体となった再エネの最大限の導入や本州の大消費地へ電力を送る海底直流送電インフラの整備などが掲げられました。

しかし、久保田氏は地域に生きる当事者として、本質的な問いを投げかけます。

「北海道が再生可能エネルギー基地を目指すことで、我々道民の暮らしは豊かになるか?」

豊かな資源量の裏側で、いま北海道は深い葛藤(ジレンマ)を抱える地域となっています。

2.再エネ導入拡大とともに何が起きているのか

大規模な再エネ事業が急速に進む中で、各地で自然環境や景観保全との共生が問題となっています。

釧路湿原×メガソーラー

FIT(*2)開始以降、主に域外の民間事業者による太陽光発電事業が急増し、タンチョウ・猛禽類・キタサンショウウオ等の希少野生生物の生息地への影響、森林伐採、湿原喪失、景観破壊等の問題が顕在化しました。釧路湿原は年間4.5万tCO₂を吸収する重要な炭素吸収源ですが、再エネ導入のために湿原が消失する、という矛盾が起きています。

風力発電×バードストライク

環境省によれば、2024年度の北海道での海ワシ類の風力発電施設との衝突事故は過去最多の17件に達しています。絶滅が危惧される希少種であり、生態系に影響を与えています。

「北海道の自然資本は、再エネ供給基地の“土台”であると同時に、守るべき生態系そのものでもある」

再エネを普及させる正義と、豊かな生態系を守る正義。2つの正義が衝突するジレンマの中にあると久保田氏は説明します。

3.再エネは誰のものか

ジレンマは自然環境への影響だけに留まりません。続いて、久保田氏は地域の経済・住民利益へと視点を移します。

道内の大規模な再エネ事業の多くは道外資本によるもので、巨額の売電収入が道外へと流出し続け、「再エネ漏れバケツ」(*3)ともいうべき状況となっています。域外資本による事業で地域は環境・景観面等で負担を負う一方、多くの場合実利は限られます。

現在、戦争の影響で世界的にエネルギー価格が高騰し、経済や生活を圧迫していますが、北海道の電気料金は以前から他地方と比べて最も高いことが知られています。エネルギー価格の高騰は、日本ではまだ政策課題としては注目されていない「エネルギー貧困」(*4)を深刻化させているとみられ、GXが進められる中で、その恩恵を受けられない人が増えていることにも注意が必要です。

4.地域主導のワイズユースに向けて

再エネを真に「地域の価値」へと転換するためには、地域のオーナーシップを取り戻す必要があります。講義では、そのための仕組みづくりと価値創造の具体例が提示されました。「地域と共生する再エネ」に向けて、各地の自治体による条例制定やゾーニング、さらには土地の公有化(買い取り)などさまざまな試みが重ねられています。

釧路市は、自然環境と太陽光発電事業の調和に向けて昨年条例を制定し、地域を定めて対策を強化しました。

浦幌町では住民参加によるゾーニングマップを作成し、開発を促進するエリアと保全すべきエリアを明示しました。

長野県は、地域との共生の下に太陽光発電を進めるために制定した条例で地元住民との合意形成を義務付けるとともに、その品質管理を具体的に事業者に求めています。

他方、タンチョウの聖地として知られる鶴居村では、ツルのねぐらを望む景勝地周辺でのメガソーラー計画に対し、公益社団法人日本ナショナルトラスト協会とも協働し、約35ヘクタールの土地を取得しています。この土地取得にあたっては、地域内外から寄付が寄せられました。開発を未然に防ぐために、あえて土地を「買い取る」という選択で、地域が自らの意志で自然と未来を守り抜く姿勢が示されています。

タンチョウの生息地として知られる鶴居村(写真提供:久保田 学 氏)

講義では、まず地域と共生する再エネ開発の前提として

①手続きの正当性、②分配の正当性、③信頼関係、

3つの原則が示されました。

さらに地域にとって有用な再エネ事業の条件として、世界風力エネルギー協会が示す

「コミュニティパワーの3原則」(*5)も紹介されました。

5.「公正な移行」に向けて

どのような地域にも「その土地の歴史」と「暮らす人々の営み」があり、脱炭素もそれを踏まえて進められる必要があります。

地域における納得づくの合意形成

② 地域に利益が確実に循環する仕組みづくり

この2つを大前提としてシステムに組み込むこと。それこそが、誰も取り残さない「公正な移行」の本質であると、久保田氏は強く締めくくりました。

次回の「GX特論Ⅰ」予告

テーマ:ネイチャーポジティヴと企業情報
講師:中山隆治特任教授

次回のGX特論Ⅰでは、今回の講義でも浮き彫りになった『生物多様性・自然資本の保全』という課題に対し、企業はどう向き合うべきか? 次回はさらにその最前線に迫ります。

【用語解説】

(*1)脱炭素社会の未来を拓く北海道・札幌宣言
2023年4月、G7札幌 気候・エネルギー・環境大臣会合の開催時に、北海道知事と札幌市長が発出した共同宣言。北海道が国内随一の再エネポテンシャルを活かした「脱炭素エネルギー基地」として日本全体のGXに貢献する方針を示した。

(*2)FIT(固定価格買取制度)
再生可能エネルギーで発電した電気を、国が定めた価格で一定期間電力会社が買い取ることを義務付ける制度。東日本大震災による原発事故を受けて再エネを拡大していくために2012年に導入され、風力・太陽光などの再エネ普及が加速した。

(*3)再エネ漏れバケツ
化石エネルギー購入の支出で地域づくりや経済振興への投資等が帳消しとなる状況は「漏れバケツ」に例えられる。収支改善のためには地域の再エネによるエネルギー自給率の向上が望まれるが、域外資本の設置によることで利益が流出してしまい、新たな「漏れバケツ」状態が生じる。

(*4)エネルギー貧困
社会的・文化的に必要最低限のエネルギーサービスを享受できない、または享受すると家計を著しく圧迫する状態。先進国では後者が問題となり、「暖房で適正な室温を維持するために世帯収入の10%以上を費やす家庭」(英国「燃料貧困戦略」2001年)がひとつの目安とされる。この基準を日本にあてはめた研究によると、冬季にこの状態(エネルギー貧困)に陥っている世帯の割合は北海道では全国平均(18.5%)を大きく上回る39.5%(2022年2月時点)に達しているとの研究成果がある。

(*5)コミュニティパワーの3原則
世界風力エネルギー協会(2011)が示す指針。①地域の利害関係者がプロジェクトの大半もしくはすべてを所有する、②意思決定はコミュニティに基礎をおく組織によって行われる、③社会的・経済的便益の多数もしくはすべてが地域に分配される、の3点から成る。

参考文献・出典

行政・自治体資料

Team Sapporo-Hokkaido 提供資料

北海道・札幌市(2023)「脱炭素社会の未来を拓く北海道・札幌宣言」

釧路市「自然と太陽光発電施設の調和に関する条例」 

鶴居村「美しい景観等と太陽光発電事業との共生に関する条例」(2022年) 

鶴居村(2026)「広報つるい(令和8年4月号)」 

環境省 釧路湿原自然再生プロジェクト 湿原データセンター 

北海道地方環境事務所(2025)「北海道の風力発電施設における海ワシ類のバードストライク続発と防止に向けた対応について」 

環境省野生生物課(2022)『海ワシ類の風力発電施設バードストライク防止策の検討・実施手引き(改定版)』 

北海道(2024)『北海道生物多様性保全計画(第2次計画)』 

浦幌町 再エネ区域ゾーニングマップ/浦幌町立博物館 

長野県(2024)『地域と調和した太陽光発電事業の推進に関する条例 手引き』

研究機関・専門団体

歌川学(2024)「再生可能エネルギーと省エネで地域が豊かになるために~『漏れバケツ』からの脱却に向けて」(EPO北海道主催事業資料) 

奥島真一郎(2026)「エネルギー貧困からエネルギー充足へ」『エネルギー正義』明石書店、p48

世界風力エネルギー協会(2011)コミュニティパワーの3原則 

参考資料

【公開資料】第6回「再生可能エネルギーの立地と課題」講義レポート(PDF版)

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