北海道大学グリーントランスフォーメーション先導研究センター

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学内研究者向け【第7回GXサロン活動報告】

2026.04.15

―不確実性という霧を晴らす羅針盤:TCFD/ISSB時代の意志決定を支える数理モデル―

TCFD/ISSBに基づく情報開示やSBTの策定は、投資判断、技術選択、事業戦略に直結するテーマへと拡大し、企業の将来を左右する「戦略的意思決定」へと変化しています。

本サロンでは、こうした高度な意思決定の指針となる数理モデルAIM(Asia-Pacific Integrated Model)を用いて「将来のエネルギー・社会システムの数理モデル」を分析する、大城 賢先生の最新の知見を共有しました。

日時:2026年4月14日(火)
会場:フロンティア応用科学研究棟1階 SDGsオアシス
参加者:研究者 17名
内容:世界・日本の脱炭素化に向けたエネルギーシナリオ分析

「予測」ではなく「選択」のためのシミュレーション
大城先生は言います。
数理モデルは、未来を当てる「予測(Forecast)」ではありません。それは、私たちがどの技術を選び、どの程度のコストを許容するかという入力(前提条件)によって姿を変える、無数の選択肢のシミュレーションです。

AIMは、技術・エネルギー・政策の相互作用を統合的に扱うモデルで、 「もし◯◯を導入したら、排出量・コスト・供給安定性はどう変わるか」を 一貫した前提条件のもとで比較できる点に強みがあります。世界の気候変動対策の指針となるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書にも活用されているこのモデルは、地球規模の知見を地域の具体策へと昇華させる、グローカルな視点そのものと言えます。

突きつけられる「トレードオフ」の現実

会場からは、多くの研究者から質問が相次ぎました。

・熱利用については?
・水素・合成燃料の可能性は?
・このまま削減施策をやらない場合の最悪シナリオは?

ひとつひとつの質問に対して、真摯に回答する大城先生の姿が印象的でした。
脱炭素の歩みには、常に「あちらが立てば、こちらが立たず」というトレードオフが存在します。

・あるエネルギー源を急拡大すれば、排出は減るがコスト増や供給安定性が揺らぐ
・再エネ導入を加速すれば、土地利用や生態系への影響が避けられない
・現状維持を選べば、環境負荷が限界を超え、国際競争力を失うリスクが高まる

北海道という地に課せられた困難
今回のサロンでは、北海道独自のシナリオ分析も紹介されました。

日本全体でGHG排出を2050年ゼロとする条件下で試算すると、広大な面積と寒冷な気候を持つ北海道では、2050年時点でも建物や運輸部門の排出が残りやすいという本道特有の困難な予測が示されています。
暖房や運輸の需要(生活の質・経済活動)を維持しながら排出量を減らすのは、まさに「地域生活の豊かさと環境負荷のデカップリング(切り離し)」の挑戦です。

大城先生が扱う数理モデルは、私たちが向き合わなければならない「厳しい制約条件」を可視化するものです。提示されたシナリオは、決して心地よい未来だけを約束するものではありません。特に、寒冷な北海道において排出量をゼロに近づけるという道筋は、ときに不可能を突きつけられるような、圧倒的な困難を伴います。

霧の中を進むための地道な積み重ね
しかし、霧を晴らすのは、根拠のない楽観ではありません。厳しい現実をデータとして直視し、どのコストを払い、どの選択肢を手に取るのか。その「選ぶことの痛み」から逃げずに議論を積み重ねること。解のない問いを前に、科学的根拠という事実を積み上げていくプロセスだけが、私たちが立ちすくむ霧を少しずつ押し広げていく唯一の手段なのです。

幅崎センター長は、サロンの締めくくりにこう語りました。
「脱炭素という難問に対して、学部を超えて知恵を結集し共通の課題に向き合っていきましょう」

GX先導研究センターは、こうした科学的知見を企業・自治体・研究者と共有し、 北海道の未来をともに描く役割を果たしていきます。脱炭素は、技術や政策の話に見えて、実は「私たちの暮らしをどう守るか」という、未来への根源的な問いなのです。

大城 賢 (北海道大学大学院地球環境科学研究院・准教授)
研究者詳細:こちら
研究室紹介:大学院環境科学院 大城研究室

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