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【講義レポート】GX特論Ⅰ 第4回|北 裕幸教授「電力システムという見えないインフラの難題に迫る」
2026.07.07
電力システムの基礎とエネルギー転換
「スイッチを押せば当たり前に電気がつく」
その裏側で、再エネ大量導入時代を支える電力システムは今、大きな変革を求められています。GX特論Ⅰ第4回では、電力システムの専門家・北 裕幸教授をお迎えし、エネルギー転換の核心に迫りました。
再エネ「主力電源化」への政策転換と地政学リスク
日本はエネルギーの多くを海外からの輸入に頼っています。現在も85%を輸入に依存しており、原油輸入の94.7%を中東に依存しています。2026年のホルムズ海峡のように、地政学的リスクは私たちの暮らしに直結します。こうした背景から、国産エネルギーである「再生可能エネルギー」の重要性はかつてないほど高まり、2025年閣議決定の「第7次エネルギー基本計画」(*1)でも再エネは正式に「主力電源」(*2)と位置づけられました。この方針転換に伴い、国はエネルギー政策の大前提である「S+3E」(*3)のすべてを成立させる運用能力を求めています。

チョークポイント(海上輸送ルートとして世界的に広く使われる狭い海峡)のリスクについて説明する北教授
制度の後押しによる再エネ拡大と、見えてきた課題
2012年に始まった「固定価格買取制度(FIT)」(*4)で、太陽光を中心に再エネは急速に拡大しました。
現在は、市場価格と連動する「FIP制度」(*5)への移行が進み、再エネは「市場の中で運用する」段階に入っています。ただ、導入量が増えるにつれ、出力変動・余剰電力・送電線の混雑・調整力不足といった電力システム側の課題も見えてきました。
再エネの気まぐれとどう向き合うか
北教授は、2018年の北海道胆振東部地震で発生した「大規模停電(ブラックアウト)」を例に挙げ、
「電気は「供給量」と「消費量」が常に(瞬時に)一致していなければならない」
「太陽光発電は時間と天気で発電量が変わる、風力発電は風の強さで発電量が変わる」
「需給バランスが崩れると周波数が乱れ、大規模停電に至る恐れがある」

と、語ります。
火力発電は、蛇口をひねれば水が出るように、燃料を燃やす量を調整して発電量をコントロールできました。供給側をコントロールできない点が、電力システムにおける最大の難題なのです。
安定供給への4つのアプローチ:蓄電池と広域運用
北教授は、この難題を解く、4つの方向性を示しました。

① 需要側を動かす(デマンドレスポンス)→いつ使う?
電気が余る時間帯に、工場や家庭での使用を促す仕組みです。「使う側」の行動を調整することで、供給の波を飲み込む知恵です。
② ネットワークの広域化と貯蔵→どこで使う?
地域をまたいで電力を融通し合えば、天候による発電量の波を平均化(ならし効果)できます。あわせて、系統側に大型の蓄電池を置いて変動を吸収する取組みも進んでいます。
「個々の発電所を細かく制御するより、広域で束ねてならすという発想が重要だ」
北海道で発電した電気も、本州で発電した電気も、届いてしまえば同じ一つの電気です。だからこそ、地域をまたいで融通し合う発想が生きてきます。その代表例が、北海道電力ネットワーク南早来変電所の大型蓄電池システムです。

「実証 → 商用化 → 増設」と段階的に育ってきた、北海道ならではの好例です。技術の成熟だけでなく、費用負担の設計や、長期的な運用を見据えた地元自治体との協働まで含めて、社会実装のあり方を示しています。
※系統側蓄電池の類似事例として、北豊富変電所(送電線と一体設計、240MW×3時間)も3月の懇談会で紹介されています。
③ 電気の枠を超える「セクターカップリング(*6)」→何に変換?
電気を熱、ガス、水素、さらにはEVや水道、通信といった他の社会インフラと繋ぎ合わせる(ワット・ビットの連携)試みです。
‐ヒートポンプで熱を蓄える
‐バイオガス発電と熱供給を組み合わせる
‐EVを「移動する蓄電池」として使う
‐水道インフラと電力インフラを統合する
‐データセンターのワークロードを地域間でシフトする
④地域で支える「地域マイクログリッド(MG)」(*7)→もしもの時は?
エリア内の再エネと蓄電池を束ね、災害時には系統から切り離して、独立して電力を供給する仕組みです。地域のレジリエンス(災害復旧力)を高めます。
※地域マイクログリッドの事例として、東松島市「スマート防災エコタウン」(太陽光約460kW・蓄電池480kWh、災害時3日~1週間の自立運転が可能)も3月の懇談会で紹介されています。
「電力システムの未来」は社会の未来そのもの
北教授の講義は、再エネの大量導入を「技術の話」にとどめません。電力システムは、発電所だけではなく、交通、通信、産業、都市そのものを結び直す基盤であり、その変革は、私たちの暮らしのあり方そのものを変えていきます。自然の恵みを最大限活かすために、社会の仕組みをどう編み直すのか。電力システムの進化は、GXの中心であり、未来の社会を形づくる“静かな革命”なのです。
次回の「GX特論Ⅰ」予告
日時:7月8日(水)18時15分~
テーマ:GX政策とエネルギー基本計画
講師:中山 隆治 氏(北海道大学大学院工学研究院 特任教授)
次回は、法制度、エネルギー基本計画、GX移行債について背景から解説します。どうぞお楽しみに!
【コラム】第3回GX懇談会(2026年3月5日)事例紹介
北海道大学GX先導研究センターが2026年3月5日に開催した懇談会で北豊富変電所の大型蓄電池システムや東松島市のスマート防災エコタウンなど、道内外の系統・地域実装の例として紹介します。
※本コーナーは北教授の講義内容とは別に、当センター主催の懇談会内で発表された事例をご紹介するものです。

系統側に蓄電池を置いて“ならす”という発想が、送電網そのものの設計と一体で実装されている好例といえます。

平常時は系統と連系しつつ、災害時には切り離して自立運転できる設計により、エネルギーの自立と地域防災を同時に実現する試みとして注目されています。
※本事例は当センター主催「第3回GX懇談会(2026年3月5日)の発表内容に基づきます。
【用語解説】
(*1)第7次エネルギー基本計画
日本のエネルギー政策の方向性を定める、政府の最も重要な計画。2025年に閣議決定された計画では、再生可能エネルギーを「主力電源」と位置づけ、2040年度の温室効果ガス73%削減という野心的な目標に向けて、脱炭素電源の導入加速や、電力システムの運用能力強化が打ち出されている。
脱炭素電源
発電の過程で、二酸化炭素(CO₂)を実質的に排出しない電源の総称。主に「再エネ(太陽光・風力など)」、「原子力発電」、および「水素・アンモニア混焼火力」やCO₂回収技術(CCS)を組み合わせた火力発電などが含まれる。
(*2)主力電源化
再生可能エネを日本の電力供給の「メイン」に据えるという政策方針。かつて再エネは「補助的なもの」とされていたが、蓄電池やインバータ制御などのバックアップ技術を組み合わせることで、需要に応じて頼れる「基幹電源」へと進化させることを目指す。
(*3)S+3E
エネルギー政策を考える上で大前提となる4つの視点(Safety, Energy Security, Economic Efficiency, Environment)のこと。国はこれらすべてのバランスを取るために、複数のシナリオを描いている。
– 安全性 (Safety) 事故のリスクを排除できるか
– 安定供給 (Energy Security) 必要な量を確保できるか
– 経済効率 (Economic Efficiency) 低コストで供給できるか
– 環境適合 (Environment) 地球環境への負荷は抑えられるか
(*4)FIT(フィード・イン・タリフ 固定価格買取制度)
再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定期間・固定価格で買い取ることを国が約束する制度。再エネの導入初期に、投資の予見性を高め、普及を爆発的に加速させる大きな役割を果たした。
(*5)FIP(フィード・イン・プレミアム)
売電価格が市場価格と連動する制度。FITのように固定価格で買い取るのではなく、市場価格に上乗せ額(プレミアム)を支給。再エネ事業者が「電力需要の高い時間帯に発電する」など、市場のニーズに合わせて発電する動機づけを行い、再エネを市場に馴染ませるための次世代の仕組み。
(*6)セクターカップリング
従来別々に運用されてきた電力、熱、交通、産業などのエネルギー部門を統合し、余剰電力を有効活用する仕組みのこと。再エネ(特に太陽光や風力)は天候や時間帯によって発電量が変動するため、単独の電力部門だけでは需給調整が難しく、余剰電力が発生することがある。セクターカップリングでは、これを熱やガス、水素、液体燃料などに変換して他部門で利用することで、エネルギーの無駄を削減する。
地域マイクログリッド(MG)(*7)
平常時は系統と連系して発電している地域の再生可能エネルギーや蓄電池等を活用し、災害等による大規模停電時に、特定のエリアを単独系統として切り離し、そのエリアに自立して電力を供給するエネルギーシステムのこと
【参考文献】
住友電工 電力安定供給のための系統側蓄電池~北海道電力ネットワーク
北海道電力ネットワーク(株)南早来変電所に3件目のレドックスフロー電池採用が決定 ~安全性や運用実績が評価され風力発電連系拡大に寄与~ | 住友電工